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2004,10,24 ヒカリと影 25
2004,10,19 ヒカリと影 24
2004,10,17 ヒカリと影 23
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2004,10,14 ヒカリと影 20

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ヒカリと影 25 2004,10,24
「・・・見ぃつけた」
「王子、何か?」
「テヅカ、アルフォンスを頼むよ。俺はちょっと用を足して来る」
「標的を発見されたのですか?では、王子自ら出向かれる事はありません!ここは私めにお任せを」
「いい、俺が行く。お前はアルフォンスをイヌイに渡して来い、催眠が不完全なら強化してもらわないとね」
「・・・承知しました。どうかお気を付けて」

テヅカは自分の操る黒竜に跨ると、アルフォンスを連れて飛び立った。
それを見届けてから『王子』と呼ばれる少年――リョーマは、自身の持つ鋭い眼力で標的を睨む。

「待ってなよ・・・今手に入れてやるから」








「この炎・・・あの時の・・・」

自分の放った業火で一瞬の内に軍隊に襲い掛かっていた魔族達が消滅し、キクマルは恐ろしいとも言える『力』にただ呆然としていた。
しかし、呆然としていたのは彼だけではなく、その場にいた軍隊や魔族らにも言える事だった。
今まで激しい争いを繰り広げていた光景が嘘のように鎮まり返り、皆が立ち尽くしているキクマルを見つめた。

「これが、竜神の力だっていうの?父さん・・・」
『・・・そうです』

誰に問い掛けたわけでもないのに、自分に返ってきた言葉にキクマルは辺りを見回す。

「誰っ!?」
『ここです、今、貴方の目にも映っておられるはずだ・・・』

もう一度自分に投げ掛けられた声にキクマルは我に返ると、恐る恐る自分の右腕を見た。
自分の記憶が正しければ、今自分の右腕には紅い竜がいたはずだ・・・。

「お、お前が・・・俺の持つ竜神の力?」
『私は火竜・・・その名の通り火の力を司っております。我が主、ようやくこうしてお目に掛かれて光栄です』

火竜と名乗る紅い竜は、今まさに自分と会話を交わしている・・・。
キクマルは、自分の中の竜神が目覚めたというだけではなく言葉を交わす事も出来る事を知って軽い眩暈を覚えた。

「主って、じゃあやっぱりお前は・・・」
『はい。貴方様の持つべき、壱の竜でございます・・・』
「壱の、竜?」

キクマルは自分の理解の範疇を超える事が身に起きているだけあって、質問を繰り返さずにはいられなかった。
自分の知らない事を訊きたいと思うのは当然だが、火竜は言葉を濁すと何かを感じ取ったかのようにある一点の方向を睨んだ。

『・・・申し訳ありませんが、どうやら説明している時間はないようです』
「え・・・何っ」
『こちらに強大な力が向かって来ています・・・その相手をするのが先決でしょう』
「きょ、強大な力?」
『我が主、申し訳ありませんが私は姿を消させていただきます』
「え!な、何言ってるのさ!お前の力が無いとっ・・・」
『ご心配には及びません、先程の言霊で私の力は使えます。私が姿を眩ます事につきましても、後に全てをお話致しますので、今はお許し下さい』

そう言い残して、今まで自分の目に映っていた火竜は姿を消してしまった。
何が何だか判らないキクマルは、先程火竜が睨んでいた方向を見据える。
火竜が言った『強大な力』とは何なのだろうかと疑問を抱き始めていた時だった。
生まれ付き視力が里でもずば抜けて優れていたキクマルは、徐々に浮き彫りになってくる向こうから来る姿に目を見開く。

「どうやら竜神の力、完全に目覚めたようだね」

キクマルの視線の先に現れたのは、デメテルを襲った張本人だった。
不敵な笑みを浮かべながら自分の方へ歩いて来る姿を見て、キクマルは警戒心と憤りを極限にまで高める。

「お前っ・・・よくものこのこと!!」
「あれ、前に言わなかったっけ?」
「煩い!!俺の力が欲しいってだけで何の罪もない町の人達を酷い目に遭わせたんだ!お前だけは絶対に許さない!!」
「へぇ、覚えてたんだ。それは光栄だね」

余裕とも取れる態度でキクマルとの距離を縮めて行くリョーマは、スッと自分の手をキクマルに差し向ける。
キクマルは素早く後ずさりして間合いを取る。

「さぁ、アンタの持つ竜神の力・・・俺に渡してよ」
「ふざけるな!誰がお前なんかにっ!!」
「へぇそう・・・でも、早く渡さないと、王都ですら無くなっちゃうよ?」

リョーマがニヤリと笑みを強くして王都を一瞥すると、突然王都のシンボルであるヘパイストス城の一角が轟音を立てて崩れ始めた。
目に見えない力で起こった出来事に、キクマルは震え出した身体を止める事が出来なかった。
デメテルでの光景と今の光景が頭の中で被ったのだ――。

「い、やだ・・・止めて!ダメ!もうこんな事しないで!!」
「だったら早くアンタの力、俺に寄越しなよ。そうすれば今すぐこいつ等引き上げさせるからさ」
「そんな・・・」

究極の選択とも言える投げ掛けに、キクマルは言葉を詰まらせる。

(俺が力を渡せば、街の人達は助かる・・・でも、もし渡さなかったら・・・俺の所為でこの王都は・・・!)

手を握り締めて俯くキクマルを見て、リョーマは素早くキクマルの右腕に掴み掛かった。

「っ!?」
「今度は邪魔者は入らないみたいだね、先ずは手始めに火竜を貰うよ!!」

振り払おうとしてもビクともしないリョーマの力に、キクマルは恐怖を覚え逃げる事もままならない。
リョーマの左手から放たれる黒いオーラが自分の右腕に伝わってくるのを目の当たりにしてキクマルは目を閉じた。
火竜が奪われる、そう覚悟した時だった。
ビュッと何かを掠めるような音がしたかと思うと、突然リョーマが呻き声を上げ掴んでいたキクマルの腕を手放したのだ。
しかし、キクマルは多少『邪のオーラ』の影響を受けてしまいその場に崩れてしまう。
凄まじい力から解放されたのとリョーマの声でキクマルが目を開けると、目の前には左腕に白い矢が突き刺さっているリョーマの姿があった。
突然の襲撃に遭ったリョーマは矢の飛んで来た方向を睨む。

「チッ、あとちょっとだったのに邪魔しやがって!」

未だ自分を締め付けているような力の中、キクマルもリョーマと同じ方向に目を向ける。
はっきりと見えないが、視線の先に人の姿が見えたような気がしてキクマルはそのまま意識を手放してしまった。
地面に倒れた音を耳にしたリョーマは、再びキクマルに歩み寄ると右腕に掴み掛かろうとする。
が、再び飛んで来た矢に阻まれてしまい、彼に近寄る事すらままならなかった。
正確に自分だけを狙って来る矢を放つ人物に、リョーマは危機感を覚え更にキクマルから離れる。

「へぇ、やるじゃん・・・」

一人呟いていると、容赦無く今度は剣を片手に自分に向かって来るのが見えた。
ビュッと空を斬る音と共に自分に振り下ろされる剣を間一髪で避け、リョーマは自分の目の前に立つ男を見据えた。

「俺をここまで追い詰めるなんて、只者じゃないね。その身のこなし・・・アンタまさか、ハンター?」
「俺の事はどうでもいい。一つ訊く・・・どうしてそうまでしてコイツの力を欲しがる?」

リョーマの問い掛けを切り捨て、ハンター風の男は剣の切っ先をリョーマに向けて訊ねた。
このハンター風の男、実は以前フジとチョウタがフローラの森の奥にある神殿であったサエキだった。
サエキは蒼い瞳でリョーマを睨み付けながら訊ねる。

「そんなのアンタに関係無いだろ。答える義理は無いね」
「理由すらまともに話せないならコイツにもう手を出すな」
「アンタに命令される筋合いも無い」
「・・・話が通じないだろうとは思ってたが、ここまで来るとただの聞き分けのない子供だな。でも、これは命令じゃない・・・忠告だ。それでも手を引かないなら、俺はお前をここで斬り捨てる」

真剣な眼差しのサエキを睨んでから、リョーマは突然笑いを洩らす。
突き刺さっている矢を引き抜き地面にそれを投げ捨てた。

「忠告、ね・・・それはご親切にどーも。でも、俺は引かないよ・・・必ず竜神の力を手に入れてやる」

それだけを言い残し、リョーマは振り返り姿を消した。
サエキは剣を下ろし鞘に収めると、倒れているキクマルに歩み寄り髪に触れる。
その時の彼の表情は、先程リョーマに向けていた鋭いものとは違い優しさを称えていた・・・。

「お前は、俺が命を懸けて守る・・・必ず」

ヒカリと影 24 2004,10,19
その竜はかなり低空飛行をしているだけに、辺りに翼によって起こされる強風が吹き荒れる。
砂埃が舞い上がり目を開けている事が出来ないエドワードは、手探りしながら大声でアルフォンスの名を呼ぶ。

「アル!何処だアル!!」
「お前の望む弟など、ここにはいない」

何処かからそんな声が聞こえ、エドワードは反射的に目を開けた。
すると視線の先に、全身黒ずくめの長身の男――が竜の背に乗っているのが見えた。
未だ苦しんでいるアルフォンスを抱えて・・・。
エドワードは目を見開き怒りを露わにする。

「てめぇっ・・・アルに何しやがった!」
「是ほど錬金術に長けている子供が早死にとは、ろくに経験を活かせずに世を去ったのだろう?それでは報われないと思ってな。だが、まだ催眠が不完全なようだ・・・出直して来よう」

エドワードの怒りをかわし、男はアルフォンスを抱え直すと竜に掛けている手綱を引き上空を高く飛ぶ。
一旦戻って態勢を整えようというのだ。
しかしエドワードはそこから一歩も動けずにいた。
先程男が言った言葉が、頭の中を駆け巡っている・・・。

『それでは報われない』
『催眠が不完全』

あの男の言った事が判らないわけではない。
だが、頭では判っていても気持ちが追い付いていかなかった。
言う事から察するに、病でこの世を去った弟は、あの男に操られている。
安らかに眠るはずが無理矢理永遠の眠りから覚まされ、死んだ弟を錬金術が長けているからと言って手駒のように扱っている――。
悔しさのあまり唇を噛み締め、エドワードは力の限りに地面に拳をぶつけた。
悔しさの次に込み上げてくるものは・・・怒りしかない。
脳裏に浮かぶアルフォンスを抱えていた男に吐き捨てるように、エドワードは言葉を吐いた。

「てめぇは・・・てめぇだけは・・・絶対ぇぶっ殺す!!」








そして北方のキクマルは、生まれながらにして身に付いていた体術で襲って来る魔族を翻弄していた。
武器として扱っている忍刀を自在に操り魔族の急所を次々と突いていく。
だが、斬っても斬ってもきりのない無数の魔族を前に、キクマルの体力は尽きようとしていた。
ぜぇぜぇと息が上がり、下手をすると魔族の手に掛かってしまいそうだった。
軍隊の援護射撃を受けても一向に数が減る様子を見せない魔族にいい加減嫌気が差す。

「こンの〜・・・次から次へと、キリがないじゃんか!」

キクマルが捲し立てても魔族達が引くわけでもなく、キクマルが半ば投げ遣りに向かって行こうとした時だった。

「っつ!!」

突然、右腕を激痛が襲い、キクマルはガクッと膝を地に付けてしまう。
その拍子に持っていた刀も落としてしまった。
しかし、あまりの激痛にそれを拾う余裕もない。

「こんな時に・・・っ!」

何とか立ち上がろうとするが脚にすら思うように力が入らない。
しゃがみ込む彼に襲い掛かろうとする魔族達だったが、軍隊の攻撃に遮られあと一歩というところで仕留め損なう。
一人の兵がキクマルに叫ぶ。

「早く!こっちに戻って来い!」

背中で聞き、キクマルは冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべる。

「もう・・・痛すぎて無理だっつーの・・・」

目の前も霞んできたような気がして、キクマルの脳裏にデメテルでの出来事が甦る。
あの少年の起こした行動によって目覚めた自分の中の力・・・。
強大な炎が現れたかと思うと、その炎はあっという間に目の前にいた少年を飲み込んでしまった。
その時微かに聞こえた、ある『言葉』と共に――。
キクマルは朦朧とする意識の中で、何とか必死にその『言葉』を思い出そうとする。
それさえ言えれば、今のこの状況を打開出来るかも知れない・・・そう願いつつ。

『シャギャアァァァァッ!!!』

それでも容赦無く魔族達はキクマルに襲い掛かろうとする。

(あの言葉・・・小さい頃、父さんが言ってたのを聞いた気がするのに・・・思い出せない!)

何とかキクマルを守ろうと軍隊も躍起になって魔族達を射ち落とす。

(もう一度、あの力を出す事が出来れば・・・この王都を救う事が出来るかも知れないのに・・・)

やがて魔族達は標的を変え、門の入り口を守っている軍隊を攻撃してくる。
背後で叫び声が聞こえ、キクマルは反射的に後ろを振り返る。

「やばっ・・・このままじゃ皆がっ」

激しい痛みを訴える腕に鞭打って、落ちている忍刀を手にキクマルは立ち上がろうとする。
しかし、やはり脚に力が入らなく、キクマルは地面に倒れこんでしまった。

(早く思い出さないと・・・皆が・・・!!)

『汝、我が紅蓮の炎の前に平伏せよ・・・』
「・・・え!?」

確かに聞こえた誰かの声――。
顔を上げてキクマルは辺りを見回すが、辺りには人影らしきものはない。

「なん、じ・・・」

空耳かと思ったが、キクマルは聞こえた言葉を繰り返そうとする。

『汝、我が紅蓮の炎の前に平伏せよ』
「汝、我が紅蓮の・・・」

何とか起き上がりもう一度繰り返そうとする。


『「汝、我が紅蓮の炎の前に平伏せよ!!」』


自分の声と何者かの声が一つに重なると、キクマルの視線の先にいた魔族達はあっという間に炎の波に飲み込まれていく。
その時キクマルは見た――、自分が翳した右手に巨大な紅い竜が浮かび上がっているのを。

「これ・・・って・・・」

もしかしてこれが・・・俺の持つ、竜の姿―――。

ヒカリと影 23 2004,10,17
「お兄ちゃん、どうして僕の名前知ってるの?」

きょとんとして訊ねる少年――アルフォンスの瞳に曇りはなかった。
あの頃と・・・まだ彼が生きていた頃と同じ瞳だった。
エドワードは手に力が入らなくなり、持っていた槍を地面に落としてしまった。

「何言ってんだよ・・・アル、冗談はよせって・・・」

声を出すのもやっとで、エドワードは絞り出すように言う。
しかし、目の前の少年は首を傾げるだけ・・・。

「僕、お兄ちゃんのこと判んないよ」

目の前が一気に暗くなった気がした。
同時に、地獄の淵に落とされたような気さえした。

「ふ・・・ざけんなよ!俺だよアル!俺が判らないのかよ!!」
「わっ!あ、危ないなぁ」

エドワードは半ば混乱していた。
もしかしたら、死んでしまった所為で記憶が無くなってしまったのだろうかと思い、少年の肩を揺さぶろうと手を伸ばすが簡単にかわされてしまう。
アルフォンスと呼ばれた少年は、エドワードの様子に警戒を示す。

「俺だよアル、判らないのかよエドワードだよ!!お前はアルフォンス・エルリック、俺の弟だろ!!」
「って事は、君は僕のお兄ちゃんってこと?何言ってるの?僕は王子の命令でここに遣わされた刺客だよ」
「アル・・・?」
「そう・・・先ずはこの王都を潰す為にね!」

アルフォンスは更にエドワードと間合いを取ると、突然襲い掛かって行った。

「!?アル、止めろ!!」

突然の攻撃にも関わらず持ち前の素早さで避けたエドワードはアルフォンスの動きに、生前の彼の姿を重ねる。
病に倒れてそのまま還らぬ人になった弟は、よく兄であるエドワードと一緒に組み手をしていた。
エドワードは一度もアルフォンスに勝った試しが無かった。
兄だからという遠慮もあったのかも知れないが、弟には勝てなかった事を今でも鮮明に覚えている。
素早さはエドワードに劣っていたアルフォンスだったが、頭の回転が良く突飛でもない攻撃でエドワードを翻弄していた。

(同じだ・・・攻撃の仕方も動きも全部!やっぱりこいつはっ・・・)
「避けてばっかりじゃ僕は倒せないよ!」
「っ!?」

考え事をしながら避けていたおかげで、次に来たアルフォンスの攻撃を避け切る事が出来なかったエドワードはいとも簡単に吹き飛ばされてしまった。
地面に倒れそうになったが何とか持ち応える。

「アル!バカな真似は止めろ!俺はお前と殺り合うつもりは無い!!」
「はぁ・・・お兄ちゃんってバカでしょ?」
「なっ・・・」
「本気で来なかったら僕を倒すどころか王都は救えないんだよ?」
「だからってお前を・・・弟を手に掛ける事が出来るかよ!!」
「まだそんな事言ってるの?僕には兄なんて・・・っ!!」

『弟』と呼ばれた今、アルフォンスの身体に異変が起こった。
心臓がドクンと大きく動いたかと思うと、突然息苦しさが彼を襲った。

「あ・・・な、なに・・・これっ・・・!!」

苦しさのあまり地に膝を付くアルフォンスを見て、エドワードは血相を変えて駆け寄る。

「ア、アル?どうしたんだ!?しっかりしろ!!」
「や、だ・・・イヤだっ・・・僕はこんなこと・・・したいんじゃな・・・い・・・」
「しっかりしろアル!何所か苦しいのか?」

何かを振り払うかのように頭を振ってただ苦しむアルフォンスの様子にエドワードは戸惑う。
だが、どんな理由があろうと弟を放ってはおけない。
エドワードがアルフォンスに触れようとした時だった。
突然強風が辺りに吹き荒れ、エドワードの視界を砂埃で遮ったのだ。

「ぅわ!つ、次は何だよ!」

次にエドワードが目を開けた時には、既に目の前からアルフォンスの姿が消えていた。
その変わりに現れたのは、自分の上空を覆っている巨大な竜だった。

ヒカリと影 22 2004,10,16
扉が開かれたと同時に発砲される銃弾に呻き声をあげる魔族達。
先制攻撃で一気に潰しにかかる手段にしたリザだったが、視線の先で次々と魔族が倒れて行く様を見て違和感を感じた。
それでも攻撃は止めさせないが・・・。

(何故・・・相手は魔族、こんなに簡単に倒れるなんて・・・)

人の姿形からかなり掛け離れている出で立ちに最初は恐れを感じていた兵士達だったが、面白い程に銃弾に倒れる魔族に半ばホッとしていた。
それは西方の部隊だけに留まらず、あとの三方の部隊も同じだった。





南方を受け持ったフジもリザと同様、妙な違和感を感じていた。

(何だ・・・何かがおかしい)

襲ってくる魔族以外に、もっと強大な力が近くにいる気がしてならない。
近くというよりは、自分の目の先に・・・。
そんな事を考えていた時だった。

「っ!・・・何!?」

突然地鳴りがしたかと思うと、フジ目掛けて攻撃を仕掛けて来た者がいた。
しかしフジは間一髪でそれを避けると、地面を叩き割った事で巻き上がる粉塵の中に浮かび上がる人影を見た。
突然響いた大きな音に驚いたフジの近くにいた兵士達はその影を目に留めると、その方向に銃口を向ける。

「フジさん!そこを退いてください!俺達が・・・」
「君達はそのまま魔族を相手にしてくれればいい。こいつは、僕が相手をする」

ビリビリと伝わってくる殺気からフジは覚った。
この人物こそが違和感の原因だと――。

「あぁ!ったく、避けてんじゃね〜よ」
「・・・君か、違和感の原因は」

警戒を強めながら煙の向こうにいる影に訊ねる。
影はゆっくりと歩み寄りその頭角を現した。

「モモシロで〜す。ヨロシクな〜♪っと!」
「おっと」

自己紹介していたのかと思うと、モモシロと名乗る男は再びフジを目掛けて拳を突き出す。
ある程度予想していたフジは余裕でそれを避け、男と間合いを取った。

「お!女みてぇな顔してやるね〜」
「一言余計だよ」
「ま、それはそうと。お前よ〜、んなモンで俺の手下達ぶん殴ったら痛いじゃんよ」
「痛くしてるんだよ。そうでもしなきゃ何度でも立ち上がって来るだろ?君達は」

フジは挑発的に、持っている杖を振り下ろして見せた。
細腕からどうすればビュッと空を切る音が出るのか、モモシロは含み笑いを浮かべる。

「それは武器としても扱えるってワケだな」
「まぁね。でも・・・振り回すだけが杖の出来る事の全てじゃないよ」







その頃、東方を受け持ったエドワードも派手な錬金術で襲って来る魔族を次々蹴散らしていた。
一度両手を合わせ地面に付けるだけで地面がうねり、地上の魔族はほぼ全滅に近い状態だった。
空の奴等は軍隊の援護によって射ち落とされ、エドワードが手を出すまでもなく片が付きそうだった。

「何だぁ?こんなもんかよお前等。来るなら纏めてかかって来いよ」

エドワードは余裕の笑みを浮かべながら、尚も攻めて来る魔族を蹴散らして行く。
しかし、この余裕の笑みも、後に引き攣る事になろうとはこの時誰も予想などしていなかった・・・。

「おいっ、何か様子が変だぞ」
「一体どうしたってんだ・・・」

突然魔族達が動きを止め、元来た方向へ逃げ帰って行くのを見て兵士達は口々に言う。
地上の魔族を全て蹴散らしたエドワードは兵士の声に上空を見上げた。
そこには兵士の言う通り逃げ帰って行く魔族達の姿があった。

「な、何だ?どうしたってんだよ、おい!」

エドワードがその光景にただ唖然としていると、一人の兵士が一点を指差し彼に呼び掛ける。

「エドワード殿、あれを!」
「あ?」

半ば間抜けな顔をして上を見ていたエドワードは兵士が指摘する方向に視線を送った。
視線の先には、一人の人影が立っていた。
その姿を確認してから再び上を見上げると、魔族達はその人影の方に向かって逃げ帰っていた。

「成程な・・・アイツがこいつ等の親玉ってワケだ」

その人影の周りを見る限りでは、魔族達はもう襲っては来ないだろう。
エドワードはそう確信する。
空気が変わったのだ、『自分と一対一で』という雰囲気が漂っていたから。
そうと判ればと、エドワードはもう一度手を合わせ地面から槍を錬成した。

「お前等はここを守ってろ」

後ろの兵士達にそう言い残し、エドワードは槍を片手に立ち尽くしている人影目掛けて走り出した。
今までは遠過ぎて姿が判らなかったが人影は少年のようだった。
金髪の頭で全身を黒で統一した衣装の少年は、エドワードが向かって来ているにも関わらず身構えようともしない。
なめられたもんだなと思い、エドワードはそのまま少年に向かって槍を振り下ろす体勢に入る。
しかし、今まで俯いていた少年がゆっくりと顔を上げると、エドワードは後数センチという寸でのところで槍を止められた。
否、止められたのではなく、止めたのだ。
少年の顔を見たエドワードは驚愕に目を見開いたまま、槍を振り下ろす体勢のまま身動き出来なかった。

「な・・・なん、で・・・お前が・・・」

手が汗ばんでいくのを感じ、額に冷や汗が流れ、エドワードは身体を震えを止める事が出来なかった。
顔を上げた少年は、年相応の笑顔を浮かべて言う。

「お兄ちゃんって強いんだね。僕の駒達をあっさり殺しちゃうなんて」

少年の発する声と笑顔を見て、エドワードは完全に思考が止まった気がした――。

「あ・・・アル・・・何でお前が・・・」

ヒカリと影 21 2004,10,15
「いい?攻め込まれる前に一気に総攻撃を掛けるわよ。伝令班はこの事を全隊に伝えて!」
「はっ!」

リザが引き受ける西方には、百人の部隊が集結していた。
西方だけではなく、北方、東方、南方全てに百人それぞれの部隊が待機している。
守備隊の護衛を頼んだ第五部隊によれば、街の住民全員が一人残らず避難を完了したらしい。
これで被害を最小限に抑える事が出来るはずだ。
リザを始めとする戦闘部隊は、緊張を極限まで高める。

(四方の門の守りは完璧。だけど、一つ気になる事が・・・)

リザはふと上空を見上げる。
先程気付いたリザは、空にいる何者か――シシドの存在が気になっていた。
四方が無駄なら上空からも・・・という考えが頭を過ぎるが、自分の置かれている状況を見ると今目の前にある事を片付けるのが先決だった。

(まぁ、アイツが何かしてきたとしても、我が軍が誇る主砲からは逃れられないでしょう・・・)

王都中央地下に格納されている巨大主砲は、別名軍事国と呼ばれるヘパイストスが誇る最大の攻撃手段。
王都が本当に追い詰められた時に使用が許可されるものだった。
リザは、ふっと笑みを浮かべると、四方の門を一斉に開け放つよう言う。

「これより総攻撃を開始する!各部隊打ち方用意!四方の門全てを開門せよ!」








重く丈夫な門がゆっくりと開き、視線の先には数え切れない程の敵――魔族がいた。
北方のキクマル、東方のエドワード、南方のフジはそれぞれ目の前に現れた人ならざるものの姿に笑みを浮かべる。

「絶対この先は通さないからね!」
「飛んで火に入る夏の虫ってな!」
「久々に大暴れ出来そうだね」








そして、この混乱の中チョウタはというと・・・、

「す、スイマセン!俺も行かせてくださ〜〜い!」
「ダメだ!外は危険だ!」

街の住民達と一緒に地下に避難させられていた・・・。

「お願いします!俺の仲間もここにいないところを見ると戦いに出てるんです!俺だけここでジッとしてるワケにはいかないんです〜〜!!」
「ダメだと言ったらダメだ〜〜!!」

何が何でも外に出ようと扉にしがみ付くチョウタと、何が何でも外に出すワケにいかない軍人のやり取りを見て、一人の男が見かねて二人に声を掛けた。

「あ〜、何か見とれんわ。ちょお兄さん、こんなに言っとるんや、黙って行かせたらええんちゃう?」
「な、何だお前は。そんなの許されるワケないだろう!!」
「お〜お、これやからお堅い軍人さんは好かんのや。っちゅーか俺が思うに・・・お前等、あの別嬪な大佐に逆らえへんだけやろ〜?それとも何か、命に逆らって嫌われるのがイヤなんか?」
「なっ!何を言う!職務に私情は禁物だ!そんな事あるわけがなかろう!」

図星をつかれたらしく、その軍人は妙に慌てふためき始めた。
男はニヤリと笑いその軍人の肩を組むと小声で言った。

「大丈夫やって、俺の所為にしたらええさかい。俺はこの事絶対口外せえへんから安心しい」
「だ、だがな・・・」
「お前な、もしここでこの坊主出してやらなかったら後々面倒やで〜」
「何が面倒なんだ?」
「こいつな、キレたら手ぇ付けられへんねん。下手したらここにおる住民に斬りつけるかも知れへんで」
「何っ!?」

男の言葉に軍人は顔面蒼白になった。
住民を守れと命を受けているのに、その住民が被害を被るなどとあってはならない事だ。
例えそれがどんな理由であっても。
一人の男をここから出す事で大勢の命が救えるのなら、と軍人はチョウタを手招きする。
二人の会話を聞き取れなかったチョウタはただ首を傾げながら近寄って行く。

「はい、何ですか?」
「おいお前、出してやるから有り難く思えよ」
「えっ!本当ですか!?」
「ばっ、バカかお前は!デカイ声出すなよ!!いいか、この事は絶対誰にも秘密だぞ?特に、ホークアイ大佐にはな!」
「?はい、判りました」
「うむ、行ってよいぞ」
「あ、有り難う御座いますっ」

何が何だかよく判らないが何とか外に出られたので、チョウタにとっては万事解決だった。
チョウタを見送ってから、男は元いた場所に戻ると再び寝る事にした。

「人助けっちゅーんは気持ちええもんやなぁ」

ヒカリと影 20 2004,10,14
「大佐!こちらにおられましたか」

上層部にエドワードの件で許可を請いに執務室を離れていたリザは、執務室前にいた軍人に呼ばれると、何やら落ち着かない様子の彼を見つめた。

「何か?」
「はっ!ご報告申し上げます!つい先程、王都四方の門を守備している警備隊より連絡が入りまして」
「・・・続けて」
「それが、王都の周りを無数の何かに囲まれたという報告が」

リザはその言葉に一つ眉を動かすと、執務室の窓から真っ直ぐの位置にある南方の門に目を向けた。
街の様子もおかしいのも然ることながら、何か妙な違和感を覚える。
リザは開口一番に、扉前で命を待っている軍人に告げた。

「第一守備隊と第二守備隊に街の人達を城の地下へ避難させるよう避難勧告を出してもらって、急いで!」
「はっ!」

リザの命を待ってましたとばかりに立ち去ると、リザは次の命を下すべく室内にある電話を手にして素早くダイヤルを回す。
ワンコール目で受話器を取る向こうの素早さに感心しつつも、リザは的確に命を下した。

「大至急、第一部隊から第四部隊までを四方の門前に出撃するように伝えてちょうだい!それと、第五部隊は守備隊の援護を!」
『了解しました!』

承諾の返事を聞いてから受話器を置いて、リザは一旦大きく肩で息をした。
精神を落ち着かせ気持ちを戦場に切り替えると、机の中にある数丁の拳銃を装備して自分も外へ向かう。
目指すは、西方――。






「んだぁ?アレは」

その頃エドワードは、正式な許可が下りるまで街をぶらつこうとしていたが、空にある黒い何かを見て呆然と立ち尽くしていた。
周りにいる街の人々も『アレ』が何なのか判らず混乱しているのか、ただ騒ぎ立てていた。

「人・・・か?いや、まさかなぁ・・・」

暫く見ている内にエドワードの目には、『アレ』が人の形をしているように見えてきた。
どうして人があんな高く空を飛んでいるのか判らないエドワードは、ただ首を傾げて頭を悩ませる。

「やっぱ人じゃねぇよなぁ・・・でもなぁ」
「エドワード君!」
「あ、フジ」

腕組みをしながら考えてるところにフジとキクマルが走って来た。
言いたい事は判る、『アレ』が何なのかという事だろう。

「お前、アレが何に見える?」
「僕もそれが気になって・・・何か、とてつもなく嫌な予感がするよ」
「俺も・・・さっきから、右腕がチリチリするんだ」
「おい、大丈・・・」
「エドワード君!ここにいたの!」

次にエドワードの行動を遮ったのはリザだった。
何やら深刻な表情をしているものだから、エドワードを含めフジとキクマルも「何かあったのか」などと探りを入れる事は躊躇われた。

「エドワード君、貴方には東方の門へ赴いてほしいの」
「・・・急を要するみてぇだな」
「ええ、一刻を争うわ」
「ま、ワケはそこに行きゃ判んだろ。んじゃ、ちょっくら行って来る!」

エドワードが走り去って行くのと同時に、リザは目の前にいる二人に告げる。

「貴方達も早く避難して、ここはまもなく戦場になるわ」

リザの言葉に、フジは「嫌な予感が当たった」とばかりに眉間に皺を寄せた。
キクマルも痛む右腕を押さえ、今自分達が置かれている状況を知る。

「嫌な予感はしてたんです。まったく、こういうのばかり的中するんだから・・・」

フジが溜め息混じりにそう呟くと、リザの目を見据えてこう告げた。

「僕達も力になります。いえ、手伝わせて下さい」
「何言って・・・」
「俺からもお願いします!俺、ここの人達を守りたいんです!もう二度と、誰も失いたくないっ・・・」

フジとキクマルの真剣な表情を目の当たりにして、リザは拒否する事が出来なかった。
言葉を詰まらせ唇を噛み締める。
リザの胸を駆け巡る何かが、彼女に決断を鈍らせていた。
しかし、今は迷っている時ではない・・・一刻を争うと言ったのは自分だという事を思い出す。
リザは軍人の顔に戻ると、二人に命を下した。

「じゃあフジ君は南方、キクマル君には北方をお願い。第一部隊と第三部隊がそれぞれ待機してるから行けば判るわ」
「はい」
「うん、了解!」

キクマルはふと周りを見た。
守備隊に誘導されながらも、不安な色を浮かべる避難する街の人達を見て決意を新たにする。

(俺はもう、絶対誰も死なせないよ!)








王都の周りを取り囲むようにして待ち構えていたのは・・・。

「ちったぁ楽しめるんだろ〜な、シシド」
「ま、そこそこってカンジだな。軍隊なんざ数が多過ぎるってだけで無力な蟻を殺すようなもんだぜ」
「フッ・・・蟻か、言うようになったね君も」
「何言ってんだよロイ、お前程じゃねぇって」
「えっと〜、俺がこっから襲撃するとして、ロイとアルはどうすんだシシド?」
「上空から見たところだと、西はロイで東はアルってカンジだな」
「北は?」
「それは王子様のお楽しみって事よ。龍神の力を持つヤツが北にいたからな」
「私達の相手は軍隊だけか?やれやれ・・・つまらんな」
「そうでもねぇみてぇだぜ〜、お前等三人そこそこ楽しめると俺は思うぜ?」
「おーっし!その言葉、信じるぜ!」
「では、各自持場に就くとするか・・・」

ヒカリと影 19 2004,10,13
「っつーワケで、何とか許し貰えねぇ?」
「そうね、私は一向に構わないけど・・・こういう事は上が決める事だから」
「ん〜・・・やっぱそうかぁ」

フジとキクマルが城下町を歩いている頃、一度軍部に戻ったエドワードは上司であるリザ・ホークアイに例の事を掛け合っていた。
彼女は、この王都ヘパイストスにある軍部の大佐という地位にある人物だ。
女性にしては初の異例のスピード出世で今の地位に着任していて、エドワードの上司にあたる。
リザは、戻って来るなり外部に出る許しを乞うエドワードを見て苦笑しながら言った。

「話は判ったわ。デメテルを襲った奴を追うのね?しかも軍とは関係無く自分自身で」
「あぁ、軍の駒として動くんじゃない。俺自身の意志でソイツを追いたいんだ」
「・・・どうして君がそこまで真剣になるの?」

真っ直ぐ目を見据えて訊ねるリザに、エドワードは言葉を飲み込む。
真摯な視線に全てを読まれているような気分になる。

「・・・判んねぇ。でも・・・追わなきゃならない気がするんだ、アイツを」

リザから視線を外し俯き加減で拳を握り締めて、エドワードは絞り出すように言う。
そんな彼を見つめて、リザは溜め息混じりに言葉を続ける。

「いまいち動機が不純ね、それじゃあ上にも掛け合えないわ」

リザの容赦無い言葉にエドワードは眉間に皺を寄せる。
リザはそんな事などお構いなしに、机の引出しの中に入っている一枚の書類を取り出すとエドワードに差し出した。

「これに理由を書いてくれる?嘘八百並べてもいいわ、貴方の行動には上層部も感心してるしこの紙切れ一枚でも信じてくれるでしょう」

リザがにっこり笑ってそう告げると、エドワードは表情を明るくしその書類を受け取る。

「いいのかよ?上司がこんな事させて」
「あら、嫌なら無理して書かなくてもいいのよ?」

今度は意地悪そうに笑って見せる。
エドワードは、冗談!と言って素早く書類に書き込んでいった。
ものの数分で書き上げリザに渡し、彼女は確認の為に一通り目を通してから判を捺す。

「これで何とか形になったわね。後は私に任せておいてくれればいいわ、何とかしてみせるから」
「サンキュ、大佐!」

椅子から立ち上がり執務室を出て行くリザに敬礼してから、エドワードもその場から立ち去った。








「へぇ、色んな物があるんだね。流石王都って感じ」
「ふふ、珍しい物も沢山あるからね、見てて飽きないだろ?」

自慢げに言うフジを見てキクマルは、うんと元気良く頷いた。
二人が物珍しそうに街を歩いていると、二人に歩み寄る影が二人を呼び止めた。

「そこのお二人さん、ちょっとええ?」

突然呼び止められた二人が後ろを振り返ると、そこには背の高いローブを被った人物が立っていた。
いきなり何だとでも言うようにキクマルは警戒心を強め少し後ずさりした。
だが、一方のフジは警戒する事なく、傍から見たら怪しい以外の何者でもない男に訊き返す。

「何か用でも?」
「あぁ、ちょいとそこの髪がはねてるヤツにな」
「・・・俺が・・・何?」
「まぁまぁ、そんな警戒すんなや。別に取って食おうっちゅーんやないねんから」

聞いた事がない言葉にキクマルは更に警戒心を高めるが、呼び止めた男の方はお構いなしに話を続けた。

「アンタ、龍神を操れるな」

男のこの一言に、今まで笑顔を絶やさなかったフジは目を見開くと目の前の男を見据えた。
しかし、今度は逆にキクマルが警戒を弱め、驚いた表情で男を見つめた。
何かの罠かも知れないと自分を戒めつつも訊かずにはいられなかった・・・。

「何で・・・俺を知ってるんだ?」
「・・・今の一匹だけやったらどう考えてもあの子供は倒せへんで」
「あの子供って・・・お前何者だよ!」

キクマルが叫ぶと同時に、フジは男の首筋に短剣を突きつけると周りに聞こえないような声で更に訊ねた。

「君、何を知ってるんだい?事と次第によっては、僕、君に何をするか判らないよ?」
「お、落ち着けや・・・少なくともお前等が追ってるヤツの手先とちゃうで」

声に恐怖が混じっているのを聞き逃さなかったフジは短剣を引っ込めると、怪訝そうな顔で男を睨む。

「・・・どうして僕達に話し掛けた?」
「そいつが持つ龍神の力、少し強めたろ思うてな」
「強めてどうする気だい?まさか、狩るんじゃないよね」
「ちゃうって!人の話は最後まで聞きや!どこまで信用されてへんねん俺・・・」

男が項垂れると同時に、街の人達が徐々にざわつき始めた事に気付いたフジは辺りを見回した。
空を指差してしきりに口を揃えて、「あれは何だ」などと街の人達は騒ぎ立てている。
フジもつられるようにして空を見上げると、高すぎてはっきりとは判らないが空を黒い何かが飛んでいるようだった。

恐怖は、すぐ目の前まで来ていた――。





王都ヘパイストス襲撃まで、あと数分――。

ヒカリと影 18 2004,10,11
突然現れた小さな少年に、チョウタは何の躊躇もなく彼に問い掛けた。

「どうしたの?ボク。お母さんとはぐれちゃったの?」
「オ、オオトリ君、彼は違」

フジがチョウタを止めようとしたが時既に遅し・・・。
『ボク』に反応した金髪の少年は、突然目の前のチョウタに怒りの声を張り上げた。

「だぁ〜〜れが豆粒どちびかぁぁ〜〜!!!」
「わぁぁ!!・・・って、豆粒なんて誰も言ってないよ〜〜!!;」
「今言ったじゃねぇか!!」
「ひ〜〜;ち、違いますよ〜〜!」
「あ〜、ほらほらエドワード君落ち着いて」

いつチョウタに襲い掛かってもおかしくない状態の少年を、フジは慌てる事無く鎮める。
チョウタはキクマルいるベッドの陰まで逃げて、彼の怒りが治まるのを半ば震えながら待つ。
だがチョウタは思った。
誰も豆粒どちびなんて言ってないのに・・・。

「え、と・・・フジ、この人は?」

凄まじい光景を目の当たりにした気持ちになったキクマルは、ベッドの端に腰掛けながらフジの隣にいる少年を見つめながら訊ねた。
エドワードと呼ばれるこの少年は一体誰なのか、ただの好奇心であるがとても気になった。

「あぁ、彼はね」
「いいよ、自分から話すから。俺の名前はエドワード・エルリック、宜しくなキクマル」

先程の豹変ぶりからは考えられない少年独特の笑顔を見たキクマルは、差し出された手を躊躇う事無く握り返す。

「こちらこそ宜しくね。でも、どうして俺の名前知ってんの?」
「こいつに訊いた。お前の事だけじゃなくて、あの町であった事も全部、な」

エドワードがそう口にすると、キクマルの手が一瞬震えた。
そんな些細な動きも見逃さなかったエドワードは、手を放そうとするキクマルの手を再び掴み言った。

「その町で何があったのか訊きたい、教えてくれないか?大丈夫、別にお前を責めるワケじゃねぇよ。ただ・・・知りたいんだ、軍の狗として」
「軍の・・・狗?」
「あぁ、俺、国家錬金術師でさ。軍の元で働いてんだ、だから軍事的な状況を把握するのも取り敢えず仕事なんだ」
「フジに、訊かなかったの?」
「一通りは教えてもらったぜ。でも、一番判ってるのはお前だって言われたから」

キクマルは壁に寄り掛かっているフジを見た。
彼は微笑んで一つ頷いて見せる。
キクマルは唇を噛み締めると、意を決して口を開いた。

「あの町を・・・俺の故郷を壊したのは、男の子だった・・・」
「男の子?町を襲ったのは子供なのか?」
「そいつ、俺の力を求めてて・・・何の罪もない町の人達を・・・無抵抗な人たちを殺した」

口にする度にキクマルの表情が重くなっていくのを目の当たりにして、エドワードは眉間に皺を寄せる。
どれだけ辛い思いをしたのか、判る気がした・・・。
エドワードは一つ息を吐くと、掴んでいたキクマルの手を放し項垂れる彼の肩に手を置いた。
ふとキクマルが顔を上げると、エドワードは苦笑いをして見せた。

「悪ぃな、こんな事訊いちまって・・・。これ以上訊くのはやめとくわ」
「・・・でも、」
「大体の事はフジに訊いて判ってんだ。それに、今一番知りたかった事は訊けたしな」
「・・・どういう事?」
「疑いを確信に変える事が出来たかい?エドワード君」
「おぅ、充分だぜ」

フジとエドワードが不敵に笑い合うのを見て、キクマルは首を傾げる。

「意味判んないよ、何?」
「あぁ、いや、彼が一つだけ僕の言う事を信じてくれなくてね」
「何を?」
「町一つを襲ったのが男の子一人だって事をだよ」
「だってよ〜、普通信じられるワケねぇだろ?あれでも結構デカイ町なんだから、その町が子供一人に襲われたなんて言われてもよぉ」
「僕は真実を言ったまでだよ?それにあんな状況で冗談なんて言えるワケがないでしょ」
「だ〜か〜ら〜!どうしても腑に落ちなかったんだって。だからこうして訊いたんだろ?おかげで確信に変わったんだからもういいじゃん!」
「僕の言う事は信用出来ないくせに彼の言う事は信じるわけ?」
「だぁぁ!!なんっでお前はそう突っ掛かって来るんだよ!」
「と、言うワケなんだよキクマル君、判ってくれた?」
「へ・・・?あ、うん;」

今の今まで繰り広げられたやり取りに呆然としていたキクマルだったが、突然フジに話を振られて我に返った。
確かに、普通に考えれば年端も行かない少年に何が出来るのか理解に苦しむだろう。
しかし、彼は明らかに普通ではなかった・・・。

「ま、あの町を潰してくれたんだ、普通の子供じゃねぇ事ははっきりした!」
「あんなにしといてすぐに消えたしね、彼は・・・」
「盗賊やら夜盗だったら軍じゃなくても御用だったけど、こりゃ相手が相手だからな・・・上に掛け合ってみっかな・・・」
「どうする気?」
「話によっちゃあ軍を離れて個人的にそいつを追うって事!」
「あの人が許してくれるかい?」
「許すも許さないも俺は追うってたった今決めた。何が何でも許可を下ろさせる!」

結局判断を待つんじゃないか、とフジは苦笑いした。

「さて、と、っつーワケで俺はもう行くぜ。早速掛け合ってみる」
「はいはい、お怒りは買わないようにね」
「それは約束出来ね〜」

エドワードは笑いながら部屋を出て行った。
まるで台風一過のようだった。

「チョウタ君、もう大丈夫だよ・・・っていうか、ずっとそうしてたのかい?」
「は、はい・・・あ!さっきの会話ですけど、あれって彼も僕達に付いて来るって事ですか?」
「さぁね、個人的にって言ってたからそれはどうだか・・・。まぁ、錬金術の腕は確かだから、もし一緒に来てくれるなら大助かりだけどね」
「あの、俺剣術以外には疎いんでよく判らないんですが、錬金術って何か代価を伴うって聞いた事があるんですけど・・・」
「彼等錬金術師は『等価交換』って呼ぶみたいだね。『何かを得るためには同等の代価が必要になる』、でもそれは錬金術だけに言える事じゃない、世の理だよ」
「ぅわ・・・スイマセン;何かもう付いて行けない次元の話です・・・」
「あはは、ゴメンゴメン。あ、そうだキクマル君、さっき面白い物を見つけたんだ。君さえ良かったら一緒に街を歩かない?さっきは起きたばかりだから立てなかったけど、もう大丈夫だと思うよ」

キクマルはその言葉を信じて恐る恐るベッドから立ち上がる。
すると、起きた時とは違い、今度はしっかりと立つ事が出来た。

「ほらね、大丈夫って言ったろ?気晴らしに、出掛けよう」

フジが柔らかく微笑んで見せると、つられたようにキクマルも笑顔になり力強く頷いた。
エドワードにちょっとだけ話した事とフジの気遣いに気持ちが軽くなった気がした。


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